新建築論考コンペティション2021
主催 一般財団法人吉岡文庫育英会 株式会社新建築社
新建築論考コンペティション2021
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2020年が始まってすぐ,私たちは新型コロナ禍に呑み込まれた.それからほぼ1年かかって,ワクチンが開発され,接種がはじまった.当初の想像を超えて長期に及ぶこの災厄も,いずれ私たちの前から通り過ぎ,過去のものになってくれる,と願うばかり.
しかし,それは私たちが,以前の暮らしにそのまま戻ることを意味するのだろうか?
悪夢は忘れたいもの.私たちはきっと,この間に体験した困難を忘れて,もとのままの生活に戻ろうとする.もしかしたら,抑制の反動で,以前にも増して,これまでの道の先を急ぐのかもしれない.
しかし,コロナ禍にあって,あまりに「あたりまえ」すぎて,それまで意識に上ってさえいなかった生や社会の前提や基盤を,私たちが肌身に感じたことも事実.
三密を避けなければならない.それは,私たちの暮らしが「密閉,密集,密接」という根底の上に築かれていること,そして,それなしには私たちが培ってきた文化も生活も維持することが難しいことを改めて気づかせた.
また,こうした新興感染症が出現し,かつ一瞬にして世界中に広がってしまう大きな要因に,地球環境を破壊してしまうまでの私たちの経済活動があり,それがもはや「待ったなし」の課題であることも突きつけられた.
格差が広がる一方の世界で,危機は格差の解消に寄与するどころか,より激しい分断を招く,ということも知った.
その一方で,私たちは,離れた人とかなりスムーズなコミュニケーションができるだけの技術をすでに持っていたことに驚いた.また,それでは代用できない,生身の身体的・物理的接触が大切なことを,身に染みて感じた.
ペスト,コレラ,天然痘,スペイン風邪と,文明が生まれてこのかた感染症を経験し続けてきたにもか かわらず,人類はその歴史から学ぶことなく,同じ間違いを繰り返すばかり,ということにも打ちのめされた.
コロナ禍は,私たちが見てきたいつもの世界に亀裂をつくり,その裂け目から,その真実の姿を垣間見せてくれた.
この禍いがはじまってごく早い時期に出版された『コロナの時代の僕ら』で,イタリアの作家パオロ・ジョルダーノは書いている.「数々の真実が浮かび上がりつつあるが,そのいずれも流行の終焉とともに消えてなくなることだろう.もしも,僕たちが今すぐそれを記憶に留めぬ限りは.」
そのとおりだと思う.今は,私たちが思いがけずに得た「天啓」が「たちまち煙と化してしまう」前にそれを書き留め,建築,都市について,今一度,考え直してみる時期なのだと思っている.コロナを経験して,私たちは建築,都市について,新たな考え,実践にいたることができるのだろうか.
みなさんの論考を期待しています.
青木淳
主催 一般財団法人吉岡文庫育英会 株式会社新建築社
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新建築社は新しい試みとして,いまを書き記す論考コンペティションをはじめます.
今回の審査員は青木淳氏です.みなさまのご応募をお待ちしております.
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登録・応募開始
2021年 4月1日
締切
2021年 8月1日
結果発表
2021年10月1日
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最優秀賞は『新建築』建築論壇に掲載(予定)
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青木淳
1956年神奈川県生まれ/ 1982年東京大学大学院修士課程修了/ 1991年青木淳建築計画事務所設立(2020年ASに改組)/主な著書に『Jun AokiCOMPLETE WORKS 1:1991-2004』(2004年,INAX出版)『原っぱと遊園地』(2004年,王国社)『青木淳ノートブック』(2013年,平凡社)『Jun AokiCOMPLETE WORKS 3:2005-2014』(2016年,LIXIL出版)『フラジャイル・コンセプト』(2018年,NTT出版)
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